Coffee History
コーヒーの歴史
9世紀のエチオピアの伝説から、現代のスペシャルティコーヒー革命まで。
一杯のコーヒーが世界を変えた1,000年以上の物語。
コーヒーの発見
エチオピア高原の伝説
エチオピアの高原地帯カッファ地方で、ヤギ飼いのカルディが赤い実を食べた後に元気になったヤギを発見したという伝説が残る。この実こそが野生のコーヒーチェリーだった。カルディは近くの修道院の僧侶にその実を届け、僧侶たちが夜の礼拝中に眠気を防ぐために利用し始めたとされる。
イエメンで初めて栽培される
スーフィー修道士たちの「目覚めの飲み物」
15世紀、イエメンのスーフィー(イスラム神秘主義者)たちが深夜の礼拝(ズィクル)に集中するためコーヒーを利用し始めた。アデンの港からアラビア半島全土へと広まり、モカ(al-Mukhā)港がコーヒーの国際貿易の中心地となった。当初イエメンはコーヒー豆の輸出独占を守るため、発芽しないよう焙煎した豆のみを輸出していた。
アラビア半島・オスマン帝国へ
カフヴェハネ(コーヒーハウス)文化の誕生
1530年代、コンスタンティノープル(現イスタンブール)に世界初のコーヒーハウスが開店した。コーヒーハウスは「賢人の学校(Mektebi İrfan)」とも呼ばれ、知識人・商人・芸術家が集うサロンとなった。チェス・バックギャモン・詩の朗読が行われ、政治的議論の場にもなった。一部の支配者はその危険性を恐れ、コーヒーを禁止しようとしたが失敗に終わった。
ヨーロッパへの伝来
ヴェネツィア商人が持ち込んだ「悪魔の飲み物」
1600年ごろ、ヴェネツィア商人を通じてヨーロッパにコーヒーが伝わった。一部のカトリック司祭はコーヒーを「イスラムの悪魔の飲み物」として教皇クレメンス8世に禁止を求めた。しかし教皇はコーヒーを試飲した後、「これを異教徒だけのものにしておくのは惜しい」と述べ、キリスト教徒の飲み物として認可したとされる。この「教皇の洗礼」によりヨーロッパ全土への普及が加速した。
イギリス・フランスのコーヒーハウス全盛期
啓蒙主義を育んだ知識の交差点
1652年にロンドンに開いた最初のコーヒーハウスは瞬く間に普及し、1700年代初頭には2,000店を超えた。階級を超えて誰もが集えるコーヒーハウスは「ペニー大学(Penny Universities)」と呼ばれた。ロイズ保険(Lloyd's of London)、ロンドン証券取引所、オークションハウスのサザビーズもコーヒーハウスを起源とする。パリのカフェ・ド・プロコープではヴォルテール、ルソー、ディドロらが議論し、フランス革命の思想的土壌となった。
アメリカ大陸・アジアへの伝播
オランダ・フランスが世界中に広めた
オランダ東インド会社がインドネシア(ジャワ島)に初めてコーヒーを持ち込み大規模栽培を開始。その後、フランス海軍将校ガブリエル・ド・クリューが小さな苗木をマルティニーク島に持ち込み、カリブ海・中南米へと拡大した。ブラジルには1727年にポルトガル経由でコーヒーが伝わり、わずか1世紀で世界最大の生産国になった。ボストン茶会事件(1773年)後、コーヒーがアメリカの国民的飲料となった。
産業革命とコーヒーの大衆化
インスタントコーヒーの発明と缶詰文化
産業革命により工場労働者に安価で目覚めの飲み物としてコーヒーが普及した。1865年にジェームズ・マソンがコーヒーミルを発明し、家庭での挽き立てが可能になった。1901年に日系アメリカ人の加藤サトリがインスタントコーヒーを特許取得。第一次・第二次世界大戦では軍の糧食にインスタントコーヒーが採用され、世界中の兵士に普及した。大戦後の缶コーヒー文化が始まる。
第一波:コーヒーの大量消費時代
スーパーマーケットと缶コーヒーの時代
戦後のアメリカで、スーパーマーケットのインスタントコーヒーや缶コーヒーが日常品となった。品質より量・安さが重視され、薄く淹れた「アメリカンコーヒー」が主流に。日本では1969年に世界初の缶コーヒー(UCCミルクコーヒー)が発売され、自動販売機文化と相まって独自の缶コーヒー文化が花開いた。この時代のコーヒーは「カフェイン補給」が主目的だった。
第二波:スターバックス革命
エスプレッソ文化とコーヒーショップの台頭
1971年に創業したスターバックスは、イタリアのエスプレッソ文化をアメリカに持ち込んだ。ラテ・カプチーノ・フラペチーノなどのメニューがコーヒーを「体験」として再定義し、「サードプレイス(第三の場所)」というコンセプトが世界を席巻した。コーヒーはシングルオリジンや産地ではなく、ブレンド名・ロースト度合いで語られる時代になった。日本でもシアトル系カフェが急増した。
第三波:スペシャルティコーヒーの時代
産地・農家・精製方法への深い関心
2000年代から、コーヒーをワインのように産地・品種・精製方法・農家の名前で語る「スペシャルティコーヒー」ムーブメントが台頭。浅煎りで豆の個性を引き出すライトローストが注目され、シングルオリジンのダイレクトトレードが広まった。パナマゲイシャが2004年のオークションで記録的な高値をつけ、世界に衝撃を与えた。日本でも「サードウェーブ系カフェ」「精製方法」への関心が一般層にも広がりつつある。
日本のコーヒー史
喫茶文化から世界トップクラスの消費国へ
日本へのコーヒー伝来は17世紀ごろ、出島のオランダ人との交流が始まりとされる。1888年に東京・上野に初の喫茶店「可否茶館」が開業。明治・大正・昭和にかけて喫茶店文化が独自の発展を遂げ、純喫茶・音楽喫茶・漫画喫茶など多彩な業態が生まれた。現在日本は世界第3位のコーヒー輸入国。ブルーボトルコーヒーが清澄白河に出店した2015年前後から第三波的な文化が急速に広まった。